自作キーボードとの闘い

 

18時ごろに帰宅して、すぐに作り始めた。キーボードの自作は、パーツが揃っている場合「部品を基板に半田付けするだけ」で完結する。自分が今までくぐり抜けてきた数々の修羅場に比べたら、小学校の工作の授業みたいなお手軽ホイホイ作業である。

 

完成間近になって部品を取り付ける順番を間違えていることに気付き、すでに半田付けしていた20個のキースイッチを全て取り外すことになった。しかし、一部のキースイッチの半田付け部が、これまた半田付けされたマイコン基板の下に隠れていて外せない。結局マイコンも外すことになった。ピンヘッダに半田付けされたマイコンを取り外す作業は、普通の人なら断念するくらいキツい、というか普通できないとされる作業だ。「修羅場」が始まった。体感で1時間以上はんだを吸い取り続け、ついに力尽くで取れた。この時点でマイコンはまだ完全に生きていた。しぶとい。

 

間違っていた部品を付け直して、キースイッチを再び半田付けする作業に戻った。しかし、先にマイコンを半田付けしてしまったせいで、さっきと同じ位置のキースイッチの半田付けができない。 マ イ コ ン を も う 一 度 外 し た。 ここからが本当の「修羅場」だ。さらに悪いことに、外す際にマイコン基板上に予め半田付けされていたごま粒サイズの部品を2つ壊してしまう。この2部品は表面実装といって、生産ラインで機械が取り付けるようなもので、個人が手作業でホイホイ扱えるようなものではない。

 

............全人類がそこで諦めた。

 

 

だが、ここに1人だけ、最後まで諦めない人間がいた。彼は大きい方の部品をポリウレタン導線を介してもとの位置に繋ぎ直した。もう一方の小さい方は壊れており、直せない。しかし、ネットで画像検索したところ、その部品が「積層セラミックコンデンサ」であることが判明。ちょうど数日前に自動操縦用の回路を作るときに買ってきたものの予備が、手元に余っている。容量は知らないが、とりあえず同様にポリウレタン導線で付けた。その他、作業中に切ってしまった基板配線をバイパスした。固唾を呑んでPCに接続。

 

............動いた。

 

 

20個中13個のキーが反応しないか正常に動作しなかった。しかし、生き残っていた7個のキーは完全に動作し、ファームウェアの書き換え(キー割り当ての変更)もできた。正しく人の執念とマイコンの強靱さの賜だろう。その基板は無理な力がかかって曲がっており、全体が触れないほどの熱に何度も晒されている。いくつかの部品は一度外れており、違う部品に置き換わったものもある。はんだを乗せるための導体が脱落して、一部のピンは配線すら不可能になっている。部分的とはいえ動作すること自体が奇跡といっていい。