艦船模型好きとしてゴジラマイナスワンを観た感想(ネタバレ注意)

はじめに

2023年11月3日、「ゴジラ -1.0」(以下、本作)が公開された。2016年のシン・ゴジラ以来、国内の実写ゴジラ映画としては実に7年ぶりとのこと。私は、幼少の頃からガメラウルトラマンシリーズと共にゴジラ作品に親しんでおり、ハリウッド版ゴジラシン・ゴジラを皮切りにゴジラ作品が再び見直されるようになった昨今、私も新作が公開される度に欠かさず追いかけてきた(ネトフリのやつは観てないけど)。また、小学校高学年のころ「宇宙戦艦ヤマト」に出会ったのがきっかけで、太平洋戦争時の旧海軍艦艇に興味を持ち、今日まで1/700ウォーターラインシリーズを中心とした艦船模型(プラモデル)を作ることを趣味の一つとしてきた。

本作に対する公開前段階での印象

そういった身として、本作には格別の期待をもって公開の日を待ち望んでいた。終戦直後の日本。そこには太平洋戦争を生き残った旧軍艦艇がある。ゴジラ作品としてこの時代が主な舞台となったことは未だなく、旧軍艦艇がゴジラ掃討に活躍するという願ってもない展開が予想された。以下に当時のツイートを引用する。

予告編が公開されたとき、そこには期待を裏切らず何隻かの残存艦艇が登場していた。分かる限り特定しようとしたのが以下である(一部に微妙な間違いがあることに注意)。

また、その当時は予告編で見せない真打ちとして、終戦時横須賀に残存していた戦艦長門の登場をほぼ確実視していた。そういうわけで、以下のツイートが本作に対する自分の期待を最も端的に表している。

ちなみに、9月末に東京ビッグサイトで開催された「全日本模型ホビーショー」においてプラモデルメーカーの一つ「ハセガワ」と本作とのコラボ企画の存在が発表されている。ハセガワは1/350というビッグスケールの戦艦長門をモデル化しており、私は本作で戦艦長門が大活躍した上で、ハセガワから対ゴジラ仕様の特別版長門が出るのではないかと予想していた。

以上が本作公開前の私の大凡の心中である。以降の内容は本作のネタバレを含む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実際に登場した旧軍艦艇その他

零戦(多分)の着陸シーンから始まる。

しばらくして二等輸送艦が登場。本作初の旧軍艦艇はなんと予告編に登場しない二等輸送艦だった。復員輸送のようにも思えるが、劇中の時系列では終戦前だったような気もする。

次に出てきたのは掃海用の小型木造船2隻(これは民間船だろう。戦時に徴用されていたかもしれないが)。

一旦陸に戻った後、再び木造船2隻で海に出る。破壊され大傾斜したまま漂流する商船?が登場。これは予告編にも出ていたシーン。戦闘が始まり、シンガポールから駆けつけた重巡洋艦高雄が登場。20.3cm主砲で善戦するも、あっけなくやられてしまう。

ゴジラが上陸前に海上防衛線を突破する際、小型艇(詳細不明)が登場。

しばらく地上で話が進み、船は出てこない。作戦会議で駆逐艦雪風、響、欅、夕風の艦長が登場し、この4隻が作戦に参加することが明かされる。

戦後のドサクサで放置されていたとかいう局地戦闘機震電が登場。

ゴジラが再び出現。海防艦が通報していたような気がする(海防艦の登場シーンは初上陸のときだったかもしれない。記憶が曖昧)。

駆逐艦4隻が停泊している埠頭(横須賀?)周辺にゴジラが上陸。予告編にもあった駆逐艦と思われる艦の艦首部が飛んでくるシーン。4隻は急ぎ出港。震電も離陸。

神奈川県内陸と思われる田舎で震電ゴジラに攻撃をかけ、ゴジラ海上まで誘い出す。海上では4隻が待ち構えており、最終決戦が始まる。囮として無人の夕風が放射熱線の餌食になる。欅も同じくやられたのだろう。雪風と響による予定通りの作戦が開始された。よく見るとこの2隻は後部を大改造しており、クレーンやリールなどの作戦用機材を搭載している。セリフで「46サンチ砲弾」と2回ほど言っていたので、大和型戦艦の主砲弾を何らかの方法で調達し、作戦に利用していたと思われる。その後のピンチでタグボートの船隊が駆けつけ、雪風と響を支援。震電の体当たり攻撃(操縦士は生還)によりゴジラ掃討に成功。雪風と響は帰還する。

本作を観た感想

前半の木造船パート。私には小型の作業船による海上作業の経験があるので、船の揺れ具合(揺れているので常にどこかに掴まって立っている)や、船橋から声を張って作業員に指示を伝えるところが、妙に実感を持てて楽しめた。

高雄登場シーン。20.3cm主砲でゴジラにしっかりダメージを与えつつ善戦する重巡高雄の勇姿、本作はあれが見られただけでも本当に良かった。重巡の主砲がゴジラに効いてる!という確かな手応えのようなものが感じられる砲戦シーン。けれどもその後の反撃によってあっさり轟沈してしまう。艦橋がなくなっても至近距離で打ち続ける主砲、放射熱線による爆煙や水沫が消えた後には既に海面に船体が残っていないという凄惨な最期。予告編でも高雄型の爆発シーンがあったため予想はついていたが、かなりショックだった。個人的に本作で最も辛いシーンだった。

作戦会議で発表される、本作におけるゴジラ攻略法について。急激な加圧と減圧によってダメージを与えるという、時代の制約をクリアしつつ理論上実現できそうな方法が提案されており、非常に説得力のある作戦概要だったと思う。ただし、深度1500mの水圧下で、ガスを充填するだけのバルーンは動作しないだろう。恐らく現代でもその深度で急激に莫大な浮力を得る装置を作るのは難しいのではないか。

震電登場。主人公が搭乗するらしく、艦船じゃないくせに主役メカ面をしてきた。ハセガワのコラボは絶対これだ(本当は艦船でコラボしてほしかった)。戦後のドサクサでこんなものが残るとは思えないので、制作陣にどうしても出したい方がいたのだろう。どうせならこんな分かりやすいオタクホイホイではなく、「閃電......! 完成していたのか!」としてほしかった気もする。

最終決戦。とにかく4隻が近い! ローレライでもあったが、艦同士の距離があり得ないほど近い。あんなお団子陣形で航行することある? ......まあ、囮の欅と夕風を無人にするため、いつでも乗組員の移乗を素早く行える必要があることを考えると、あの近さは仕方がないのかもしれない。しかし、そのような事情があったとしても、放射熱線でまとめてやられるリスクを無視してあの近さで4隻を配置するのはおかしい。映像表現上の都合が第一にあったのではないかと邪推してしまう(そういう隙を与えないでほしかった)。まあその点に目を瞑れば、雪風と響の活躍ぶりは本当に興奮した。旧軍艦艇が画面に映っているだけでメチャクチャ嬉しいのに、艦尾部が特別に改造された2隻の駆逐艦ゴジラのメインテーマ曲をバックに海上を疾走し着実にゴジラを追い詰めていく。最高の映像体験だった。史実の旧軍艦艇には一種の無念さがつきまとうが、戦後本当にあのような形で国を守ることに貢献できていたなら、これほどの報われ方はないだろう。

ラスト、銀座で亡くなったと思われていたヒロインが実は生きていたという。展開として出来すぎではと感じたが、本作については旧軍艦艇が活躍してくれただけで大満足なので、こういった側面には個人的にはあまり興味がない。とにかく旧軍艦艇がゴジラ相手に奮闘しているところが見られればそれで良かったし、ゴジラの演出も敵にとって不足なし!と言わんばかりの大迫力。欲を言えばもっと旧軍艦艇を出してほしかったくらいだ。戦艦長門を筆頭に、史実で復員輸送船として活躍した主な艦艇だけでも空母葛城、鳳翔、軽巡洋艦酒匂、鹿島、秋月型駆逐艦数隻などなど。駆逐艦海防艦などは数も多い。伊400型も3隻揃っている。着底した戦艦も浮揚して、旧海軍がなしえなかった戦艦や水雷戦隊を中心に据えた艦隊決戦を寄せ集めの残存兵力で実現させるのもどうだろう? 真面目な怪獣映画でそこまでやると流石に遊びすぎな気もするが。

艦船模型好きとして今後期待すること

さて、現在プラモデルの人気はガンプラを筆頭とするキャラクターモデルが大部分であろう。ただでさえ裾野の狭いスケールモデル界の中でも最も敷居の高い艦船模型は、そのマイナーさゆえファンにとってもメーカーにとっても不遇の分野だ。売れないので金型の更新が遅い、更なるディティールを求め一層高額化するキットやアフターパーツ、そして形成されるマゾヒスティックとも言うべき精密工作へのイメージがより一層入門ハードルを高くする。こうした状況を打開するには、コンテンツの力が必要なのは間違いない。過去にも艦艇の擬人化コンテンツのブームによって艦船模型の新規キット化や金型更新に拍車がかかった時期があった。本作でも登場艦艇こそ少ないものの、これをきっかけとして旧軍艦艇に興味を持つ人、艦船模型にチャレンジしようという人が現れ、再びジャンルが活気づくことを願う。最近旧軍艦艇の完全新金型キットが少なくて本当に寂しい。もがみ型もいいけど古いキットとかいい加減更新してくれよというのが本音。あと限定品でいいから改造雪風、改造響のキットが出てほしい。1/350スケールだと嬉しい。